男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
15th Data 打ち明け話の準備 ◆昴 side◆
「あっ!パパのすきなやつだ。」
「パパの好きなやつだ、やっぱカッコイイや。」
響と花純のそんな言葉を聞いた後から曲のテンポと音量が上がっていく…。
そのせいもあって、メンバーの言葉が断片的にしか聞こえなくなってくるけど…俺を気分良くさせるには十分な歓声だった。
「“アイツ”やるな…。やっぱ、ジャズ――…たら"この曲"――…。」
「――…こんなにピアノ弾ける――…。」
「課長、カッコイイ…!」
「やばい。課長、カッコよすぎ。」
みんな思い思いの感想ありがとう。
そして、俺がちょっとハードになるパートがやってくる。
しばらく弾いてないから、腕落ちたな…。
申し訳ないと思いながら義兄さんをチラリと見れば、ニコニコ楽しそうに演奏しながら自然な感じでメロディラインも教えてくれる。
その後も演奏は順調に進み、最後の一音を鳴らし終えた。
「ぶらぼー!」
演奏後、一番最初に聞こえてきたのは…花純の声だった。どうやら、駄々をこねた張本人は満足したようだ。姉さんと義兄さんの真似だろうけど、3歳児が「ぶらぼー!」って笑えるな。
そしてそんな花純の素直な声とともに、たくさんの拍手が俺たちに送られる。
「昴くん。ありがとう、花純のために。」
「いや、全然。義兄さん。むしろ腕落ちてたから申し訳なかったよ。」
「え!?どこが!?全然落ちたように思わなかったけど…。」
「課長、白石さん。……素敵でした。本当に素敵な演奏で、言葉が出てこないんですが…。それから今さら大変失礼なんですけど、白石さんのお仕事って…?」
「あっ。そうですよね、お伝えしていませんしね。……調律師ですよ。」
「あっ、だから中瀬さんが『奏士さんが弾けるのは当たり前だけど――。』って言ったんですね。」
「ごめんね、演奏始まったところに水指して。」
俺たちの会話に、中瀬さんも入ってくる。
「いいえ、中瀬さん。……それにしても。本条課長もあんなにピアノがお上手だなんて、知りませんでした。本当に素敵な演奏でした。…素敵な演奏だからこそ、今日…演奏のお供にお酒が飲めないのが悔しいです。」
「ほら、昴くんの演奏の虜になってる人居るじゃない。『演奏のお供にお酒が飲みたかった。』なんて、最高の称賛だよね。」
奏士義兄さん。もういいよ、照れくさい!
「やめてくれ、義兄さん……。俺にはもったいないぐらいの賛辞だよ。ありがとう、姫野さん。」
「本条課長、本当に素敵な演奏でした。カッコよかった〜!姫野さんや課長みたいに詳しくないので申し訳ないですけど、オシャレな曲でしたね。」
「本条課長、白石さん。素敵な演奏ありがとうございました。部長に、タイトル聞いたんですけど…【5分ぐらいの休憩】に聴くにはもったいないぐらいのカッコイイ曲ですよね。」
「立花さん、鈴原。ありがとう。今弾いた曲は【ジャズの定番曲】だから話題の一つにはできると思うぞ。」
「あと、拍子が4分の5拍子って独特だから…忘れにくいかも。」
さすがだな、姫野さん。
「姫野さん、よくご存知で。もしかしてジャズお好きですか?」
「はい、好きです。私は【落ち葉】を連想する"あの曲"が特に好きですね。」
「あぁ、そうなんですか?じゃあ、渚と一緒だ。…花純の言う【ママが好きな曲】を弾いていたら【落ち葉】の方でした。…今は僕の好みを優先しちゃいましたけど…。……“ママ”、ちょっと。」
「何?奏…じゃなかった、“パパ”。」
…今、“奏士くん”って言いそうだっただろ。姉さん。
「姫野さんも“ママ”が好きな【落ち葉】を連想する"あの曲"好きみたいだよ?」
「あら、そうなの?雅ちゃん。それなら"そっち"を演奏してあげれば良かったのに…。」
「いえ、私は良いんですよ。花純ちゃんと響くんが、『パパ、カッコイイ!』って嬉しそうにしてるのを見て癒されてましたから。」
「もう、雅ちゃんったら。相変わらず可愛い…。…パパも演奏お疲れ様。相変わらずカッコイイから困ったものよね。でも、今日の“色男”は昴かしら?会社の女子たちをこんなに虜にしちゃうんだから。あんた、全然…腕鈍ってないわよ。ビックリしたわ!」
「ママ、“いろおとこ”ってなに?」
「“イケメン”ってことよ、花純。」
“色男”って……。 いつの時代の表現だよ。
それに…。花純に何を教えてんだか…。
そして、そんなことを話していたら…男性陣が寄ってきて、口々に言いたいこと言っていく――。
「昴ー。聞いてないぞー?お前がピアノ弾けるなんてー。」
…言ってないですしね、“先輩”。
「ホントだぜ。『“女”に追いかけ回されたくない。』とか言っといて、こんな風に“モテ男”の要素は隠してんだから…なんかムカつくよなぁ。」
【“女”に追いかけ回されたくない。】のは事実だから仕方ねぇわ。
それに、お前がムカつくのは……知らねぇよ。蛍。
その照れ隠しでやってる“チャラ男キャラ”が落ち着けば…確実にお前は俺よりモテるだろ。
俺は、“本気で惚れた女”だけ居ればいいと思ってるクチだから。
「さてと…。ママ、時間も時間だから先に帰ってるよ。車回してくるから。」
「うん、お願い。“パパ”。」
俺や“先輩”が話している横で、義兄さんと姉さんが帰りの相談を始めている。
「課長、なんでそんなに何でもできちゃうんですか!?俺にも下さいよ、その才能。」
「ハァ〜。あなたたち"それ"本気で言ってるの?…だとしたら、あとでお説教よ。」
姉さん。言いたいことは、何となく察したけど…子供たちが帰るまでは抑えといてくれ。
「観月。これは才能でも何でもねぇよ、ピアノに関しては俺はプロじゃない。この程度なら、意欲があれば身につくレベルだよ。」
「…ねぇねぇ、“なぎちゃん”。響くんと花純ちゃん…アップルパイ食べられる?」
「…え?えぇ。2人とも大好きだけど…。」
「今から焼くから、明日の朝食にでも2人にもあげてよ。」
「わーい!アップルパイだ!」
中瀬さんが、さらりと話題を変えてくれた。
さすがはバーのマスター。
話を聞かないようにしてくれているようで、聞くべきところはしっかり聞いている。
「響くん、花純ちゃん。今日はちょっとママ居ないけど、パパと良い子で寝るんだよ?良い子だったら、ママに“律兄”がアップルパイ預けるからね!」
「はーい!」
「はい、2人とも良い返事。さて、ちょうどパパ来たみたいだよ。」
「さて、2人とも。良い返事ができたところで帰るよ。中瀬さん。今日はありがとうございました、子供たちまで。」
「いいえ。今日は【貸切】ですし、2人とも楽しかったようだから良かったですよ。またどうぞ。」
「渚。お会計、とりあえず合算でしといてくれる?……あと。これ、帰りのタクシー代と白衣ね。」
姉さんも持ってきたのか。
「奏士義兄さん。姉さんの帰りのタクシー代なら要らない。俺、今日シラフだからちゃんと送り届けるよ。」
「パパの好きなやつだ、やっぱカッコイイや。」
響と花純のそんな言葉を聞いた後から曲のテンポと音量が上がっていく…。
そのせいもあって、メンバーの言葉が断片的にしか聞こえなくなってくるけど…俺を気分良くさせるには十分な歓声だった。
「“アイツ”やるな…。やっぱ、ジャズ――…たら"この曲"――…。」
「――…こんなにピアノ弾ける――…。」
「課長、カッコイイ…!」
「やばい。課長、カッコよすぎ。」
みんな思い思いの感想ありがとう。
そして、俺がちょっとハードになるパートがやってくる。
しばらく弾いてないから、腕落ちたな…。
申し訳ないと思いながら義兄さんをチラリと見れば、ニコニコ楽しそうに演奏しながら自然な感じでメロディラインも教えてくれる。
その後も演奏は順調に進み、最後の一音を鳴らし終えた。
「ぶらぼー!」
演奏後、一番最初に聞こえてきたのは…花純の声だった。どうやら、駄々をこねた張本人は満足したようだ。姉さんと義兄さんの真似だろうけど、3歳児が「ぶらぼー!」って笑えるな。
そしてそんな花純の素直な声とともに、たくさんの拍手が俺たちに送られる。
「昴くん。ありがとう、花純のために。」
「いや、全然。義兄さん。むしろ腕落ちてたから申し訳なかったよ。」
「え!?どこが!?全然落ちたように思わなかったけど…。」
「課長、白石さん。……素敵でした。本当に素敵な演奏で、言葉が出てこないんですが…。それから今さら大変失礼なんですけど、白石さんのお仕事って…?」
「あっ。そうですよね、お伝えしていませんしね。……調律師ですよ。」
「あっ、だから中瀬さんが『奏士さんが弾けるのは当たり前だけど――。』って言ったんですね。」
「ごめんね、演奏始まったところに水指して。」
俺たちの会話に、中瀬さんも入ってくる。
「いいえ、中瀬さん。……それにしても。本条課長もあんなにピアノがお上手だなんて、知りませんでした。本当に素敵な演奏でした。…素敵な演奏だからこそ、今日…演奏のお供にお酒が飲めないのが悔しいです。」
「ほら、昴くんの演奏の虜になってる人居るじゃない。『演奏のお供にお酒が飲みたかった。』なんて、最高の称賛だよね。」
奏士義兄さん。もういいよ、照れくさい!
「やめてくれ、義兄さん……。俺にはもったいないぐらいの賛辞だよ。ありがとう、姫野さん。」
「本条課長、本当に素敵な演奏でした。カッコよかった〜!姫野さんや課長みたいに詳しくないので申し訳ないですけど、オシャレな曲でしたね。」
「本条課長、白石さん。素敵な演奏ありがとうございました。部長に、タイトル聞いたんですけど…【5分ぐらいの休憩】に聴くにはもったいないぐらいのカッコイイ曲ですよね。」
「立花さん、鈴原。ありがとう。今弾いた曲は【ジャズの定番曲】だから話題の一つにはできると思うぞ。」
「あと、拍子が4分の5拍子って独特だから…忘れにくいかも。」
さすがだな、姫野さん。
「姫野さん、よくご存知で。もしかしてジャズお好きですか?」
「はい、好きです。私は【落ち葉】を連想する"あの曲"が特に好きですね。」
「あぁ、そうなんですか?じゃあ、渚と一緒だ。…花純の言う【ママが好きな曲】を弾いていたら【落ち葉】の方でした。…今は僕の好みを優先しちゃいましたけど…。……“ママ”、ちょっと。」
「何?奏…じゃなかった、“パパ”。」
…今、“奏士くん”って言いそうだっただろ。姉さん。
「姫野さんも“ママ”が好きな【落ち葉】を連想する"あの曲"好きみたいだよ?」
「あら、そうなの?雅ちゃん。それなら"そっち"を演奏してあげれば良かったのに…。」
「いえ、私は良いんですよ。花純ちゃんと響くんが、『パパ、カッコイイ!』って嬉しそうにしてるのを見て癒されてましたから。」
「もう、雅ちゃんったら。相変わらず可愛い…。…パパも演奏お疲れ様。相変わらずカッコイイから困ったものよね。でも、今日の“色男”は昴かしら?会社の女子たちをこんなに虜にしちゃうんだから。あんた、全然…腕鈍ってないわよ。ビックリしたわ!」
「ママ、“いろおとこ”ってなに?」
「“イケメン”ってことよ、花純。」
“色男”って……。 いつの時代の表現だよ。
それに…。花純に何を教えてんだか…。
そして、そんなことを話していたら…男性陣が寄ってきて、口々に言いたいこと言っていく――。
「昴ー。聞いてないぞー?お前がピアノ弾けるなんてー。」
…言ってないですしね、“先輩”。
「ホントだぜ。『“女”に追いかけ回されたくない。』とか言っといて、こんな風に“モテ男”の要素は隠してんだから…なんかムカつくよなぁ。」
【“女”に追いかけ回されたくない。】のは事実だから仕方ねぇわ。
それに、お前がムカつくのは……知らねぇよ。蛍。
その照れ隠しでやってる“チャラ男キャラ”が落ち着けば…確実にお前は俺よりモテるだろ。
俺は、“本気で惚れた女”だけ居ればいいと思ってるクチだから。
「さてと…。ママ、時間も時間だから先に帰ってるよ。車回してくるから。」
「うん、お願い。“パパ”。」
俺や“先輩”が話している横で、義兄さんと姉さんが帰りの相談を始めている。
「課長、なんでそんなに何でもできちゃうんですか!?俺にも下さいよ、その才能。」
「ハァ〜。あなたたち"それ"本気で言ってるの?…だとしたら、あとでお説教よ。」
姉さん。言いたいことは、何となく察したけど…子供たちが帰るまでは抑えといてくれ。
「観月。これは才能でも何でもねぇよ、ピアノに関しては俺はプロじゃない。この程度なら、意欲があれば身につくレベルだよ。」
「…ねぇねぇ、“なぎちゃん”。響くんと花純ちゃん…アップルパイ食べられる?」
「…え?えぇ。2人とも大好きだけど…。」
「今から焼くから、明日の朝食にでも2人にもあげてよ。」
「わーい!アップルパイだ!」
中瀬さんが、さらりと話題を変えてくれた。
さすがはバーのマスター。
話を聞かないようにしてくれているようで、聞くべきところはしっかり聞いている。
「響くん、花純ちゃん。今日はちょっとママ居ないけど、パパと良い子で寝るんだよ?良い子だったら、ママに“律兄”がアップルパイ預けるからね!」
「はーい!」
「はい、2人とも良い返事。さて、ちょうどパパ来たみたいだよ。」
「さて、2人とも。良い返事ができたところで帰るよ。中瀬さん。今日はありがとうございました、子供たちまで。」
「いいえ。今日は【貸切】ですし、2人とも楽しかったようだから良かったですよ。またどうぞ。」
「渚。お会計、とりあえず合算でしといてくれる?……あと。これ、帰りのタクシー代と白衣ね。」
姉さんも持ってきたのか。
「奏士義兄さん。姉さんの帰りのタクシー代なら要らない。俺、今日シラフだからちゃんと送り届けるよ。」