Caught by …
- Prologue - いつも見る彼


 彼は、いつも冷たい石畳の上に座り込んで、誰かを待つようにじっと動かない。

 私は、それをいつも横目に気にしながら学校へと向かう。

 彼の名前も、素性も、学生なのか、大人なのかも、全然知らない。

 決まった時間にいることが多いけど、姿が見えない時もある。私はそんな神出鬼没な彼のことを『迷子の子猫』と呼んでいた。

 決して地毛ではないだろう真っ白な髪と、気怠げなグレーの瞳。大人か子供か見分けがつかないのは、大抵が膝を抱えて小さく座っているからだと思う。

 『迷子の子猫』は、忙しい朝の唯一の楽しみだった。

 声をかける勇気はないけれど、見かけるだけで心が踊る。時々動く目蓋と、冷たい両手に息を吹きかける動作は、私の胸をくすぐる。

 彼は、いつも誰かを待っているようだった。

 その誰かが、彼のもとへ来てしまえば、もう会えなくなるかもしれないけど、時間が経てば、また忙しいだけの朝に戻るだけ。

 つまらない大学の授業を淡々とこなし、親の期待を予定通りに叶えてあげる。上辺だけの友人と笑いあったり、親が認めたボーイフレンドと一緒の時間を過ごすだけ。
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