夜叉の恋

四話 ごめんなさい



さらりと髪に触れる冷たい手。

慈しむように頬を撫でる手は少し遠慮がちで、思わず寧々はへにゃりと笑う。

それを見て何を思ったのか、冷たい手の主は静かに気配を遠ざける。

慌てて追い掛けるように飛び起きれば真っ先に視界に飛び込んで来たのは大きな目玉で、寧々は「ひゃっ」と叫び声を上げた。

驚いたのも一瞬。

まじまじと大きな目玉を覗き込むと、寧々は閃いたように目を丸くした。


「……あ、小鬼さん……」

「フン、ヤット起キタカ。弱ッチイ奴メ」


自分が寧々に認識されるや否や相変わらずの鋭い言葉を吐き、ぴょんと膝の上から飛び降りる。

そして部屋の隅まで行くと、身の丈程もある薪をせっせと運び、囲炉裏の中へと放り込んだ。

ぱち、と火が爆ぜる。

寧々が自身の体を見下ろせば綺麗な小袖が膝の辺りでしわになっており、恐らく寝ている時に体に掛けていてくれたのが、先程飛び起きた衝撃で膝までずれたのだろうと想像がつく。

辺りを見渡せば何処かの民家の中らしき場所で、火を熾してくれているお陰で明るくて暖かい。

外は恐らく夜だろう。

寧々はほっと息を吐いた。


「……小鬼さんが火を……? あと、この着物も……」


寧々の言葉に、小鬼は振り向いてぶっきら棒に返す。


「此処ハオレノ住処ダカラナ。着物ハオレジャナクテ鬼ガ持ッテキタ」


「ありがとう」と礼を述べ、寧々は「鬼?」訊き返す。


「鬼って、もしかして静さんのこと?」

「他ニ誰ガイルンダヨ」

「え、でも……」


寧々はきょとんと小首を傾げた。


「私、静さんが鬼だなんて初耳だから……」


瞬間。

小鬼は奇声を上げて盛大に後退りをし、まるでこの世の者ではないものを見つめるような目で寧々を凝視した。

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