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八階建ての自社ビルにある一基だけのエレベーターは、定員が八名で狭いうえに型が古く、全国昇降機リレー大会なる催しがあればぶっちぎりでビリを独走するに違いないほど動きが遅い。
 
寝ぼけた亀に運ばれているみたいでイライラする、という理由で三階のフロアまでなら階段を使う社員が多く、なかには六階までの上り下りに自らの足を使うツワモノまでいた。
 
そんなツワモノ、桐谷統吾(きりたにとうご)の背中を追いかけて、わたしは目下、階段を駆け下り中だ。

「ま、待ってください!」
 
ローヒールとはいえ、かかとのある靴だし、そもそも容赦なく駆け下りていく成人男性の足には、とうてい追いつけない。

窓がなく、弱々しい蛍光灯に照らされただけのくすんだ薄暗さのなかに、ふたりの靴音がせわしなく跳ね回る。

「き、桐谷さん待って! は、話を、聞かせてくださ」

「うっせーな、こっちは忙しいんだよ」
 
外商部のエースと呼ばれている彼は、わたしを振り返ることなく、仕立ての良さそうなジャケットを翻して軽快に階段を下りていく。

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