コーヒーを一杯
にこやかで人懐っこい笑みの女性の気遣いに、私は注文を告げた。
「フレッシュジュースを下さい」
「いい選択ね。美味しいイチゴがあるのよ」
瑞々しいイチゴの入った硝子ボールを私に見せて、女性がウインクをする。
ウインクなんて初対面の人、それも同姓にされたって、何この人ウザ、なんて思うのがいつもの私のはずなのに。
何故だか彼女のウインクには、キュンとしてしまった。
自分の頬が赤らんでいる気がして、思わず顔を背けるように窓辺へと視線を向ける。
開けられた出窓から入る穏やかな風が、ふわりふわりとリネンのカーテンを舞わす。
まるで春みたいな陽気がその窓から店内に入り込み、ブレザーのジャケットを着ているのが暑くなって脱いだ。
脱いだジャケットをさっき隣の席に置いた鞄の上に置こうとして、動きが止まる。
そこには、可愛らしい四葉のキーホルダーがぶら下がっている。
そのキーホルダーは、お揃いだった。
同じ物がもうひとつあるんだ。
その行方を、私は知っている。
それは、ついさっきのできごとだった。