コーヒーを一杯


「ねえ。痛いよ。もうやめて……」

華が、いつものように小さく消え入りそうな声で抵抗している。

華の周りには、このクラスを仕切っている女子が三人。
早紀と美紀と澪。
早紀と美紀は、澪の腰ぎんちゃく。
澪が目を付けたターゲットに、澪の言うとおりに嫌がらせをする。

この三人と同じクラスになったのが、運の悪さなのか。
それとも、目を付けられてしまう本人に運がないのか。
どちらにしろ、一度目をつけられてしまえば、玩具として飽きるまで澪は虐めをやめない。

担任はなにをやっているのかといえば、いつものんびりしている。
というか、飄々としている。
クラスで虐めがあることに気づいていないはずはないのに、何のアクションも起こさない。
面倒な事は御免だという風に、生徒の揉め事はスルーする。

澪も澪で、担任や他の教師の前や、自分の中で上だと感じる大人に対しては、巧みに振舞っていた。
だから、気づけないし。
気づいてもそんな大人たちには、対処ができない。

そもそも、大人なんて誰も使えない。
役立たずの木偶の坊だ。

特に、うちの担任なんてそのいい例だ。
どんなに知識があったって、どんなに年を重ねていたって、目の前の生徒を助けられないなら、何のための担任なのか。
ただ、教科書を読んでカリキュラムを進めるだけなら、学校なんていうこんな気味の悪い建物に篭る必要なんて少しもない。

同じ制服を着て、同じ行動をさせられて、規則と時間に縛られて。
なんて気持ちの悪い場所なんだろう。
自分がその中の一人だと考えるだけで、悪寒が走る。

勉強を教わるだけなら、塾だけで充分だ。
だけど、それ以外のものを教えるために、学校なんて物があるんじゃないの?
テレビでやっている熱血学園ドラマみたいなものを期待しているわけじゃないけれど、こんなんじゃ意味なんて見出せない。

そんな風に心の中で叫んでいる私も、結局目の前で泣き出しそうな華に手を伸ばすこともしないんだから同罪だ。


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