コーヒーを一杯
放課後の教室。
今日も生徒の少なくなった教室で、いつものあの三人が華を取り囲んでいた。
「やめてっ。イタイッ」
鞄を抱えるようにして床に丸まる華を、執拗に虐める澪たち三人組。
同じクラスの生徒は、遠巻きに見ているか、面白がって眺めているか、巻き込まれたくなくてさっさと帰ってしまっていた。
私は虐められている華をみていられなくて、澪に因縁をつけられたくなくて、ソソクサと逃げるように教室のドアに向かう。
放課後のこの時間は、澪達の時間だ。
そして、華の虐められる時間。
面白がって眺めている野次馬たちへ、見せ付けるようにして華をいたぶる。
高らかに口笛を鳴らし、煽る生徒。
はやし立てる声。
虐めを実行している澪達と変わらない目つきの生徒たちに息が詰まる。
その目から逃れるように私が廊下へ出ようとしたその瞬間、いつもは弱々しい抵抗の言葉しか吐かない華から、大きく強い叫び声が上がった。
「それに触らないでっ!!」
思わず足を止めて振り返ると、澪が華から私とお揃いのキーホルダーを奪い取ろうとしていた。
「触らないでっ!!」
もう一度出た華の反抗的な発言に、澪が顔を赤くして怒りを露にする。
玩具の癖に逆らうな、と澪の顔が怒りに歪んでいく。
さっきまでイタズラ半分だった虐めのやり取りが、その瞬間から明らかにエスカレートしていった。
なのに、華は自分の身を守るよりもキーホルダーを必死に守っていた。
ぎゅっと手の中に握り、その手を体で抱えるようにして、無理やり奪おうと痛めつける三人の暴力から守ろうとしている。
やめなよ。
そんなのどうでもいいじゃん。
キーホルダーなんて、どうでもいいじゃん。
華……。
虐められているのは華なのに、自分の方がなんだか苦しくなって、見ていられなくて、私は逃げ出したんだ。
華が必死になって守っているお揃いのキーホルダーをガチャガチャと揺らしながら、私は逃げ出すしかなかった。
澪達から。
あの目から。
そして、華から。