コーヒーを一杯


「誘ったらいいと思うよ」
「え……?」

カウンターの女性が屈託ない笑顔を見せる。

「お揃いの子。きっと、喜ぶと思うな」

瞬間、憤りのスイッチが入った。

何も知らないくせに。
私たちの事なんて、何も知らないくせにっ。

簡単にいわないでよっ。

お腹の真ん中が、気持ち悪いほど熱くなる。
ふつふつとした物が真ん中からどんどん広がって、頭の天辺から爆発しそうだった。

私は、スカートの上にある拳をぎゅっと握り締めて、目の前にいる第三者の言葉に唇をきつく結ぶ。

「喜ぶと思うな」

なのに、重ねるようにして言う女性に、どうしようもない苛立ちが増していった。
のんびりと構えるその姿勢が、ムカついて仕方なかった。

「何にも知らないくせに、適当なこと言わないでっ!」

八つ当たりしたって仕様がないのは解っている。
だけど、どうしたらいいのか解らないんだ。
だって、私はやっぱり澪たちに敵わないし、次のターゲットになるのは恐いもの。

八つ当たりしてしまったことに気が引けて、そっと女性を窺い見ると、少し寂しげに眉を下げていた。
その表情に、きゅっと胸の奥が苦しくなる。

「すみません……」

謝る私の頭に、女性が優しく手を置いた。
とてもあったかくて、優しい手だった。
その手がゆっくりと離れていくと、自分のどうしようもない弱さに情けなくて涙が滲んできた。

「私、強くないの……だから」

そう。
私はとても弱くて、どうしようもない人間だ。

あんなにいつも一緒だった華を、助けてあげることができない。
どんなに酷い目にあわされているのを見ても、どうしてあげることもできない。
声すらかけてあげられないのだから。

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