冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う




校内のセキュリティはかなり高度で、専任の警護の出番は送迎だけに限られ、校内では自由に過ごす事ができるようになった。

私の中でたまりにたまっていた自由への渇望を一気に解き放ち、何に対しても積極的に取り組める事の幸せを満喫した。

自分と同様の幼少期を過ごしてきた多くのお嬢様お坊ちゃまたちとはすぐにお互いの気持ちをわかりあい、親友もできた。

いわゆる青春というものを楽しんだ。

数年間の学校生活は、私をのびのびと明るい女の子へと成長させ、幸せな未来を期待してもいいかもしれないと、そう思える下地を作ってくれた貴重な時間だった。

私が自分の意思で人生を選択しようと、就職先をおじい様に内緒で決めるに至ったのも、その貴重な時間があったからこそであり、今の私の人格が形成されたのもまさしく同じ理由だ。

中・高時代、遅まきながらも『自我』という生きていくうえで必須に近い物をようやく得た私は、自分が置かれている状況を冷静に考えられるようになった。

結局、私には私がいる環境を変える事はできない。

一生私についてまわるおじい様の名前と、引き継いでいかなければならない大企業という名の枷。

おじい様は、会社を継ぐ予定だった長男を事故で亡くし、画家として自由奔放に生きていた二男である私の父さんを呼び戻したけれど、父さんは次期社長の重圧に耐えられず、精神を壊して関連会社に出向中だ。

そして、唯一の直系として残った私がグループを率いていくことが当然のように思われていたけれど、おじい様はその考えを否定している。

『今はもう、血縁関係で要職を引き継いでいく世の中ではないんだろうな。そんな事をしていれば会社に未来はない』


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