冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う


私の『おじい様』は、誰もがその名を知る会社を興した絶対的君主。

若い頃、その身一つで小さな建築会社を始めた。

創業して50年になるその会社は、建築以外にも徐々に手を広げ、それは全て成功した。

その後の業績は毎年右肩上がりで、現在のグループ会社は30を超えている。

私が今勤務している会社だって、そのグループ会社の一つだ。

とはいっても、部長が言ったようにおじい様の口利きで入社したわけではなく、身分を隠し入社試験を受け、採用された。

何も言わず、勝手に入社試験を受けて将来を決めてしまった私におじい様は激怒したけれど、採用された会社がグループ会社の一つだという事でどうにか説得できた。

自分が入社したい会社が葉月コーポレーション関連の会社だというだけで、特にコネを使ったこともないけれど、第三者から、私はおじい様の力によって入社できたと思われても仕方がないのかもしれない。

けれど、そんな偏見を抱かれるであろう事は、内定をもらった時点で覚悟していた。

『葉月』という苗字が選考過程で話題にあがった可能性だって捨てきれない。

それでも、私は自分の未来を自分で選択するという自由を味わってみたくて、誰にも相談せずに就職先を決めた。

入社以来、この会社で働ける幸せと、自分で決めた選択の正しさを感じながら仕事をしていたというのに、結局はおじい様の一声でそれすら足元から崩れていく。

なんて面倒な運命なんだろうか。



< 6 / 350 >

この作品をシェア

pagetop