「はじめまして。江坂紬です」

「あ……葉月瑠依です。はじめまして」

大きな窓から日差しが溢れる明るいホテルのロビーとは逆に、私の気持ちはどんよりと曇っている。

結局、受け入れざるを得なかったお見合いの為に身にまとった赤い振袖が、華やかさを演出してくれているというのに、私は、表情を化粧でどうにかごまかしている人形のようだ。

落ち込んだ気持ちはどうしても浮上する事はなさそうで、失礼だとは思いながらも目の前のお見合い相手の顔をまともに見る事もできない。

おじい様の秘書である彩也子さんが予約をしていたサロンに朝早くから連れていかれて始まった着付けとメイク。

サロンの美容師さんから私の好みを聞かれたけれど、そんなのどうでもいい。

帯の結び方や口紅の色、かんざしの種類なんてどれも同じ。

とにかく私がお見合いに顔を出して、数時間をお見合い相手と過ごせばそれでいいんだから。

自分の見た目なんてこだわらない。

きつく結ばれた帯に息苦しさを覚え、あきらめ混じりの気持ちの中連れて来られたホテル。

おじい様がお気に入りだというお見合い相手の男性は、30歳のサラリーマン。

製薬会社で新薬の研究をしている人らしい。



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お見合い  政略結婚  溺愛  すれ違い  片思い 

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