「ねぇ、環(たまき)は髪、伸ばさないの?」


柔らかな春の陽射しが眩しい四月の午前中。

カフェのテラス席で少し早いランチを済ませ、食後のコーヒーを楽しんでいると、向かいの席で私を見つめる親友の小羽(こはね)が言った。

彼女の髪は上品なブラウンに染められ、緩やかなパーマがかかった女の子らしいロング。

小羽には似合ってるし、可愛いと思うけど。

そういう髪型は手入れが大変そうだから、ものぐさな私にはきっと向いてない。

それに、今は――


「短い方が、仕事のとき楽だから」


私はそれだけ言って、湯気の立つカップに口をつけた。


「そっか、レストランだもんね。今度行ってみたいなぁ、環の職場」


――ギクッ。それはやめて、小羽。

私は動揺を隠しつつ、曖昧な笑みを作って言う。


「いつも混んでるよ?」

「予約しないと厳しい?」

「予約……しても厳しいかも」

「そうなんだぁ、じゃあ諦めようかな」


残念そうに瞳を伏せる彼女に、私は心の中で両手を合わせた。

ごめんね、小羽。

いつもお店が混んでいるのは本当のことだけど、予約が取れないほどじゃない。

でも、小羽に来られたら困るんだ。


なぜなら私はあの店で――


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