全部、抱きしめて
あたしは口に出してようやく分かった。
自分が抱えていた不安の正体に。

昨日、長谷部さんに大瀬良さんの過去を聞いて、気紛れという言葉にひかかっていたんだ。

「あの野郎、余計なこといいやがって」

「大瀬良さんが、気紛れだったらって思うと、手のひら返された時のこと考えると怖くなったんです」

「バカ。勝手に考え込むなよ。もう離婚からは立ち直ってるし、ましてや失恋した女を気紛れで優しくする悪趣味はないから」

大瀬良さんは言葉を続ける。

「オレは由里子を見放したりしないから、変な心配するな」

「はい」

今回の失恋は、一人で立ち直れそうにない。

だから、もう少しだけ、大瀬良さんに甘えさせて。

抜け出せなくなる前に、大瀬良さんとの関係を清算しようとしていた。
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