君だけのパティスリー
歯を立てた瞬間サクッとクッキーが割れる感触がして、シナモンの香りとほのかな甘さ、それにぴりっとした刺激が口の中に広がった。


「……美味しい」


ぽつりと吐息のように漏らした言葉に、横で聞いていたふゆ樹の頬が嬉しそうに緩む。


「良かった。今回はね、“大人の味”っていうのをすごく意識して作ったんだけど、これがまた難しくて。でもなーちゃん、いつだったかテレビでやってたバレンタイン特集見てて、“スパイスを効かせた大人が好むチョコレート”っていうのにすごく反応してたから。それをヒントに、“スパイスを効かせたなーちゃんが好むクッキー”ってのを目標に作ってみたんだ」


そんな事言ったかな……と過去の記憶を大雑把に掘り起こしながら、ななは袋からもう一つクッキーを摘み出す。
口にした本人が忘れているような些細な事も、ずっと前に一度口にしただけのなんてことない言葉も、ふゆ樹は昔からよく覚えていた。

記憶力がいいのかといえば、テストの点数を見る限りそれはまた別のようで、単に興味があることには脳がフル稼働で働くだけらしいというのを、ななは長い付き合いの中で知った。

何がそんなに嬉しいのか、えへへと笑いながら、ふゆ樹も袋に手を入れて摘んだクッキーを口に放り込む。
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