On the way
Ⅲ fainl set
そして今年、両親との約束の最後の年を迎えた。
今現在のランキングはこのグランドスラムで準決勝まで勝ち進んだことで
11位にまで上がった。目標まであと一歩のところまで来た。


この大会の前のランキングは16位。
誰からも褒められた。快挙だ、大健闘だと称えられた。
しかし誰にどれほど称えられても両親を納得させなくては意味が無い。


あと10ヶ月。あと8ヶ月と時間は容赦なく過ぎていくのに
費やした時間や努力に見合う成果がなかなか出せずにいた。
世界のトップ10の壁はなんと厚く高いことかと思い知らされた。



あと一歩。あと一つ。
これさえ越えることができれば、と
眼前にそびえ立つ見えない壁を仰ぎ見るかのように天を仰ぎ
孤独な戦いに辛酸を舐めた。


必死だった。


持てる力の全てを出し切り迫る時間に焦る自身を諌めながら
今日のチャンスを掴んだ。
これに勝てば、この1試合に勝てば
優勝の栄誉とともにトップ10に食い込める。



しかし相手はキングだ。連勝記録を伸ばしつつ
3年間連続世界1位に君臨し、なおも記録を更新している無敵の王者。


相手が悪い、という松崎の言葉は否定しようがないが
格上のしかも最強の王者に挑めるのは願っても無いチャンスだ。
相手にとって不足はないどころか、足りて尚余りあるほどだ。


彼が俺に勝ったところで価値にはならないだろうが
俺が彼に勝ったなら、それは比類なき誉れであり実績になる。



だから勝ちたい。
どうしてもこの試合に勝ちたい。
勝ち取った栄誉と夢を土産に凱旋したい。大切な人たちが待つ日本へ。




「なぁ 透」

「何だ」

「・・・今日のお前は一攫千金を狙う放浪者か、一旗上げようとギラギラしてる雑兵だな」

「何だと?」

「ハングリーなのは結構。でもその源が邪だ。目の前の大きな餌に目がくらんで
 本当に欲しい物が見えなくなってないか」

「本当に欲しい物?」

「お前はたった一度の姑息な栄誉が欲しくて、この3年間、頑張ってきたのか?」


松崎の一言が胸に鋭く突き刺さった。
俺は言葉を失った。


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