run and hide
4、妄想の世界で踊る

 流石に諦めてくれたのか、それとも相当凹んだのか、それから何日かは正輝との追いかけっこは止まっていた。

 何日か、なんて、しっかり答えられるんだけど・・・。7日だ、7日。丁度一週間前の木曜日に、私はバーに正輝を置き去りにして逃げたんだった。

 そして日曜日にはちゃんと髪を切った。

 5年ぶりに短くした。少しピンクを足した髪の色は私の気分を上げてくれたし、柔らかいくせっ毛は長い時の重さから解放されてパーマをあてたみたいにふわふわして、「きっちりOL」の見本みたいだった私の印象を劇的に変えた。

 ・・・らしい。

 その劇的に変えたってあたりは、同期の亀山の談だから、それが正しいかどうかは判らないんだけど。

「おおお~!!どうしたどうした!?いきなり柔らかい女になって登場して!」

 と亀山が叫んだから、そうなのかなと思っただけ。

 周囲の辛口で有名な女性社員の評判も悪くはなかったし、私は満足していた。

 今まで小ぶりのピアスだったのが、実は大ぶりなアクセサリーが好きだったのを思い出し、大きなピアスに付け替えたら益々印象が明るくなったようだった。

 最初のうちより、実は時間が経った今のほうが辛かったんだけど。

 遠い人になってしまった正輝を思って、ぼーっとしてしまう時がよくあった。

 そして、自分に突っ込む。自分から遠ざけたんでしょうが!って。

 やっと仕事も元通りにこなせるようになってきた金曜日の夜、少し残業して会社を出たところで携帯の振動に気付いて、全く不用意に、ディスプレイも確認せずに通話ボタンを押して耳に押し当てた。

「はい、梅沢です」

『・・・あ、翔子?俺』


 ・・・・・・げ。



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