透明ニンゲンと秘密のレンアイ

元カレは



 最悪だ……。


 私は真っ先にそう思った。


 正直コイツには、あまりいい思い出がない。



 暗がりでも分かるくらいの明るい金髪。


 目鼻立ちはそれなりに整っていて、色気がある。

 言うなればホスト系だ。


 名前は下園流哉(シモゾノ リュウヤ)。名前までホストにいそうだ。



「りゅうくん、この女知り合い?」



 流哉の隣にいた同い年くらいの女の子が、私を指差して言った。


 む。人を指さすんじゃない。


 私はムッとして、女をジロッと見た。


 スタイルがよくて、明るい茶髪にパーマがかかっていた。それなりに美人。


 なんか悔しい……。



「知り合いだよ。俺の元カノ」


「……っ!」



 流哉は平気でそう告げた。


 私は動揺して、息を呑んだ。



「へー……」



 女は私をジロジロ眺め回した後、不満げにフンッと鼻を鳴らして、私を睨みつけた。


 なーんでーすかー?


 私も負けじと女を睨む。


 しばらく二人の間に火花が飛んでいたが、流哉によってそれは消火された。



「まあまあ、んな睨み合うなって。若桜をフったのは俺からだから、ユリちゃん安心して」


「ちょ……っ!」


「あ、そうなんだー」



 女は明らさまに見下した笑みを浮かべて私を見た。



 私の脳内に、あの時のトラウマがフラッシュバックする。



 その瞬間頭が真っ白になって、私は弾かれるようにその場を去った。



 流哉達は出口側に立っていたから、深海魚コーナーを逆流して入り口を目指す。



――ドンッ



 逆流したせいで、人にぶつかってしまった。


「あっ……すいませ」



「若桜ちゃん!?」



「え……」



 この声……。


 私が顔を上げると、立っていたのは……



「杉下君……」



 ヘンタイだった。


 ヘンタイは私を見た途端、ほっとしたように溜め息を吐いた。



「はあぁ~……心配した」


「え……」



 今、コイツ「心配した」って言った?



「勝手にどっかいったりすんなよな。あせんだろが」



 ヘンタイは子供を叱る父親のように、私に言った。



「ご……めん」

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