キミとの距離は1センチ
彼の問いかけに、わたしはこくりとうなずいた。



「たぶん……」

「そっか。研修の途中から、ずっと具合悪そうだなって思ってたけど」



何気なく発せられたその言葉を聞いて、思わず目を瞬かせる。


……研修、って。たぶんこの人が言ってるの、さっきまでわたしが参加してた、新入社員研修のことだよね?

え、あの研修に、いたってことは……。


ふと視線が合った彼が、小さく口元に笑みを浮かべた。



「やっぱ、わかんなかったかな。俺もブルーバードの新入社員で、伊瀬っていうんだけど」

「あ……伊瀬、くん」



ようやく、思い出した。彼は研修で同じグループの机に座ってた、伊瀬くんだ。

同じグループといってもわたしと彼は結構離れた席だったし、直接言葉を交わしたりはしていなかったから、すぐに気付けなかったけれど。

まさか、貧血起こして駅でうずくまってるところを、発見されるなんて……。



「とりあえず、ここから動こうか。立てる?」



うなずいて、わたしはゆっくり、その場に立ち上がった。

とたんにまためまいがして、思わず足元がぐらつく。
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