キミとの距離は1センチ

+゚:12/ あと0センチのスピカ



+゚:12




ポケットの中のスマホが1度震えて、メールの受信を知らせる。

廊下を歩きながら何気なく目を向けると、【From:青木 都】の文字がディスプレイに表示されていた。


……本文、絵文字もなくただひとこと【がんばれ!!!】って、なんのこっちゃ。

ひとつ息をついてから、スマホをチノパンのポケットに突っ込む。

そうして、階段の前を通り過ぎようとしたところで──耳に馴染みのある声が聞こえたような気がして、つい足を止めた。

階段の上から落ちてくる声は、ふたり分。

……片方は、聞き間違いようもなく、伊瀬のものだ。



「──いやあ、本当に評判通りの有能ぶりだね、“マーケティング部の若”くん。とても楽しいミーティングだったよ」

「恐れ入ります」

「はっはっは、きみみたいな若くて優秀な社員がいれば、ウチは安泰だなあ」

「そんな……褒めすぎですって」



この位置からは姿は見えないけれど、おそらく、階段の踊り場にいると思われるそのふたり。

……あの声、鳥海社長だ。そっか、今日は伊瀬が開発に携わってた新商品の、”社長お披露目会“だったっけ。

創業者の血縁者であり、ぽよんと丸いおなかがチャームポイントで、いつもニコニコ笑顔な社長。

だけど最近はメタボを気にして、よく階段を利用してるって社内報に載ってたな。
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