キミとの距離は1センチ
「伊瀬! ちょっと聞きたいんだけどさ」

「はい」



書類を挟みながら先輩と何やら話すその横顔は、真剣そのものだ。

かと思えば会話の合間に先輩が伊瀬をからかったらしく、さっきまでの真顔を崩して「やめてくださいよ」、なんて声も聞こえてくる。



「………」



伊瀬はすごい。上司にも先輩にも、一目置かれてる。

わたしは、まだまだ、だ。



デスクについてから、ふう、とひとつ、ため息をつく。

……いいもん。今日は仕事終わったら、久々に飲みに行くんだもん。

思いっきりお酒楽しんで、鬱憤晴らしてやる!



「……よっし、がんばるぞー!」

「あはは。佐久真さんは、今日も元気だね~」

「はい! 元気です!」



わたしの大きすぎるひとりごとに反応した先輩に、ハキハキと言葉を返して。

内心のネガティブ思考はおくびに出さず、わたしはぱちぱちと頬を両手で叩くと、再びパソコンへと向き直った。
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