薄暗い待合室の中で、蛍光灯が光っている。

 頭の奥が痺れた様にぼうっとして、このままじゃミイラになるんじゃないかってぐらい涙が止まらなくて、赤く腫れた瞼が重たかった。
 たどり着いて引き渡したとたんに緊張の糸が切れてしまったみたいで、決壊した涙腺が涙をこぼし続けている。

 泣きつかれた私は、黒い長椅子に腰掛けて壁を背もたれにしていた。
 冷たい壁の温度が心地好い。

 買ったばかりの制服は見るも無惨な色に染まってしまって、風に飛ばされたリボンもどこかへ行ってしまった。

 運転手を叱咤してここへ連れてきてもらったはいいけれど、その人はは私を突き飛ばした人間を見ていないと言った。
 誰にも突き飛ばされていない私は、なのに手足の擦り傷だけで助かっている。

 連絡先の書かれた名刺を残して運転手は帰ってしまったし、私はこの場所で一人きりで待っている。

 私の知りたい本当のことなんて分かりそうにもなかったけれど、もしもと思う。

 もしもあの時リボンを取りに走らなければ、もしもあの時猫を助けようとしなければ、もしもあの時小学生が猫をいじめていなければ、もしもあの時ああだったならば、車に轢かれていたのは私だったのだろうかと。
 でも、あの時サクラくんと出会って話をしていなければ、私はもっと早く家に帰りついていたはず。
 そしたら、あの時あの場所でリボンが風に飛ばされることはなかったはずで……
 だから、何だっていうんだろう。

 ぐるぐる思考が回る。
 分かるような分からないような理論。
 魔法のような仮説。

 枯れ果てた代わりに、少し鼻を啜る。


「手術、長いなぁ……」


 冷たい壁に沿って、体を傾げる。

 腫れた瞼が下がってきて、少しうとうととしてしまう。

 今ここで眠ったら、誰かが喜ばしい知らせをそっと枕元に置いていってくれるのかな。

 ぼんやりとそんなことを考えながら、私は瞼を完全に閉じた。


「未来が欲しい」


 そう言ったサクラくんの真意とは?
 何だったんだろう。

 瞳を閉じたままじっとしていると、いつの間にか私は眠ってしまっていた。