私は夢を見た。
夢の中で私は猫だった。
まるでネックレスのような迷子札と鈴を首につけて、行儀良く玄関でお座りをしている。
じっと見上げるのは、玄関の扉。
しばらくすると足音が聞こえてきて、私は大好きな人に会える期待に胸を踊らせた。
「ただいま」
玄関の扉が開かれて帰ってきたのは、赤いリボンのセーラー服を着た“私”だった。
私は私の帰りを喜んで立ち上がり、長い尾をピンと立てて体を擦り寄せる。
私は私の名を呼んで頭を撫でると、居間の扉へ消えて行く。
私は左足を引き摺りながらそれを追いかけて、ソファーに座る私の膝に飛び乗った。
私の手のひらがまた額を撫でて、その温かさに喉を鳴らす。
私はこれが欲しかった。
欲しくて欲しくてたまらなかった。
人の手で親から引き離されて、人の手で危ぶめられて……でも、そんな私を助けてくれたのも人の手だった。
この手だった。
だから、私が傷ついたことを私が悔やむ必要なんてないんだよ。
ただ嬉しくて、本当に嬉しくて、どうすればこの喜びを私に伝えられるんだろう。
あの魔法が何だったのかなんて、私もわからない。
今も昔も私はただの猫でしかなくて、魔法の所在なんて知らなかった。
けど、私の手が優しく触れるから、私は涙ぐむ。
温かい手のひらが心地よくて、私はしっぽを揺らす。
少しうとうととしてしまい、私は私の夢の中で眠る。
夢の外で、笑顔の誰かがきっと私の肩を揺さぶってくれる。
そして、喜ばしい知らせを耳打ちしてくれる。
私は知っている。
それを待ちながら、今は幸せな未来のなかでただ眠ろう。