世界でいちばん、大キライ。
「そんなに見られたら、今スグ連れ帰りたくなっちゃうよ」

ニッと口角を僅かに上げて試すような目で悪戯に言われると、桃花はさらに耳まで赤くなる。
ダメージジーンズの長い足を組んで、カウンターに頬杖をついて桃花を見上げる表情が、さっきまでの無邪気なものではなく、大人の男だったから。

返しに思い切り困る桃花をも、わざと何も言わずに観察するような目を向け続ける。

「ジョシュ。ウチの大事な従業員で遊ぶのは止めてくれ」

一部始終を見ていた了は、呆れた声でジョシュアを軽く窘める。
桃花はいつのものように了の助け舟にホッと胸を撫で下ろし、その後展開されるふたりのやりとりを想像していたのだが……。

「遊んでるつもりはないんだけどね」

『ゴメンゴメン』なんて、ふにゃりとした笑顔のジョシュアを想像していた。
しかし、そんな予想とは全く違う、相変わらずの男の顔と意味深な言葉。

(いや、これはあれだよ。この間の仕事(ビジネス)の延長で……だから)

ひとりで『深い意味はない』と解釈して見るものの、さっきからずっと見つめるジョシュアの目がなんだか落ち着かない。

いよいよ視線を横に逸らしてしまった後に、ガタンとジョシュアが席を立った。

「なに、今日はもう行くのか?」
「時間は有効に使わなきゃネ。日本もカフェが溢れるほどあるからオモシロイ」
「いい加減、胃壊すぞー」
「まだヘーキ」

愉しそうな顔のまま振り返り桃花を見たジョシュアは、フッと目を細めて声を落とした。

「モモカ。オレは来週になったら向こうに行くよ。いい返事待ってる」

目を大きくしてジョシュアの背中を見ると、彼はドアを開ける直前にもう一度桃花を見てニッ笑うといなくなっていった。

ドアチャイムの揺れが収まるまで、桃花は無意識に出入り口に視線を向けたまま。
そんな横顔を了は黙って見つめていた。

すると、再び入り口から音が上がる。
それは普通よりも少し大きな音で、やや乱暴に扉が開かれた証拠でもあった。

驚いた桃花は目を瞬かせて視線をその来客者に向ける。
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