世界でいちばん、大キライ。
「じゃあ、また。ご来店、お待ちしてます」
「おい、忘れモン」
「あ……」

すっかりコンビニで買ってもらった昼食を忘れていた桃花に、曽我部は呆れ声で袋を差し出した。
それを両手で受け取ると、想像以上に重量があって、桃花は思わず袋の中を覗きこむ。

「あの、ご自分のも入ったままだと……」

自分が買ってもらったものはおにぎりひとつと野菜ジュース。けれど、中身にはそれに加えて、おにぎりがさらにひとつとサンドイッチ。カフェオレまで入っていた。

上目で曽我部を見ると、指摘されたことに眉ひとつ変えずに見つめ返されるだけ。
不思議に思い、困惑した眼差しを向けると、ぽん、と桃花の頭に大きな手のひらが置かれていた。

「遠慮されてんのかと思ったから、おまけ。食えなかったら夜でもいいだろ」

彼の手の重みに、一瞬で沸騰しそうなくらいに熱くなる。まるで全身の血が激しく巡っているよう。
跳ね上がる心臓を必死で抑えて、桃花は掠れた声で礼を口にした。

「あ……りがとう、ございます……」

短く「ん」とだけ答えた曽我部は、また僅かに口角をあげて桃花を見下ろしていた。
そして手が離され、頭が軽くなっていくのと同時に例えようのない、切なさにも似た心情になる。

「じゃ、また」
「……っはい!〝また〟!!」

曽我部の言葉に、思わず大きな声で反応してしまった桃花はさらに顔を赤くする。
肩を竦めて、歩き始めていた曽我部の背中を見る。
すると、ピタリと足を止め、半身を向けて桃花を見るなり可笑しそうに笑っていた。
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