世界でいちばん、大キライ。
ひらひらともう片方の手を動かして了の前を横切って外に出る。
桃花は未だに気持ちがついて行かないまま、動揺しながらジョシュアの横に並んでいた。

外に出ると、ジョシュアは肩から手を離し、ジッと桃花を見つめる。
暗闇の中でも透き通るようなジョシュアの瞳は健在で、その目に見つめられると今の自分の心中が見えているのではないかと思ってしまう。

「今後の話を聞くついでで、オレとディナーに行かない? もちろんごちそうするよ」
「今……後……」
「向こうに行ったら、そんな顔させないように、いつもオレが笑わせてあげられるし」

迷っている桃花はジョシュアの言葉にハッとする。
やはり、ジョシュアは何かを感じ取っているのだろう、と。

そのうえで、決断しなければならないのだと改めて思うと、先程よりも少し冷静な頭に慣れた気がした。

「じゃあー……とりあえず、行く? ちょっと気になるお店見つけたんだよねー」
「……はい」

口に手を添えて視線を夜空に向けながらジョシュアが言うと、少しの間の後桃花が返事を返す。
それを聞いたジョシュアは視線だけをちらりと桃花に移すと、ニコリと柔らかく微笑んだ。

「それにしてもリョウのやつ、失礼だよねー。こう見えてオレは〝紳士〟ってヤツなのに」

本当は今頃ひとりで泣いていたかもしれない。
けれど、なんの因果か、それをわかっているかのようなタイミングで声をかけてくれたジョシュア。

そんな彼に誘われたシアトル行きの話も、受け入れようと思えたのはこれらの流れから桃花にとって自然なことだった。

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