世界でいちばん、大キライ。
怪訝そうな顔で久志の動向を見届けると、数分間なんの音沙汰もないことにますます眉根に深い皺を刻む。

この期に及んで諦めたのかと、麻美は勇み足で久志の部屋へと向かっていく。
ノックもせずに、バン!と勢いよくそのドアを開け放つと、足音が響いていたせいか、久志は驚くこともせずにデスクに着いていた。

パソコン画面に真剣な顔で向き合っている久志に、麻美はイラッとして怒りを露わにする。

「ちょっと! あたしの言ったこと、聞いてた?! 『カッコつけさせろ』って、仕事するって意味なわけ?! 信じらんないっ」
「うるせぇな。確認事項があっただけ。すぐ終わる」
「なにそれ! 今、いちばん急がなきゃなんないのは他にあるんじゃないの?! 桃花さん、今日早番だって言ってたし、急がないと!」
「間に合わせる!」

カタッとキーを押し終えた久志が、くるりと椅子を90度回転させて麻美を見た。
そして、スッと立ち上がると、リビングから上着を手にして玄関へと足を向ける。

唖然として久志の行動を見ている麻美に、靴を履いた久志は背中越しに小さく呟いた。

「もし、店で捕まんなくても電話でもなんでもするっつーの」

そうしてクルッと首を回し、目を細めて麻美に尋ねる。

「麻美。お前もうすっかり元気だな?」
「えっ」

驚き戸惑う麻美は、短く声を漏らすだけ。
久志はどこか照れ隠しのように、フンと鼻を鳴らすと、表情を隠すように再び背を向けて言った。

「んじゃ、大丈夫だな? ちょっと出掛けてくる。帰りは何時になるかわかんねーから」

バタンと玄関のドアが閉まると、エレベーターに向かう。
上着に袖を通した久志は、ぽつりと零す。

「言葉が足りねぇっつーんなら、別の方法で埋めるまでだ」
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