世界でいちばん、大キライ。
(すごく絵になる)

今日は無造作に後ろで括られた少し長い髪。
そのおかげで、ジョシュアの綺麗な横顔が見える。

ある程度、ソッジョルノに通っていたから道具の配置もわかっていたのだろう。
緊張する素振りも戸惑う様子も見せぬまま、ジョシュアはグラインダーに手を掛ける。軽快なリズムの音を何度か上げて粉を入れると、しなやかな指使いで表面を均しタンピングする。

そこまでの動きは基本的なものなはずなのに、無駄のない動きと華のある雰囲気に圧倒される。
しかし、桃花が魅了されたのはそれだけじゃない。

そこからあっという間にホルダーをセットし、まるで長年愛用しているかのようにマシンを使いこなして綺麗なクレマのコーヒーを抽出する。

滴る液体を、普段からは想像できない真剣な眼差しを向けるジョシュアに釘づけになる。
そして、ピッチャーに入れていたミルクをスチームすると、トン、と一度底をぶつけて持ち上げた。

軽く回してミルクを馴染ませると、勢いよくカップへと注ぎ込む。
アートを描くのは数秒の作業だが、まるで時が止まったように感じた。

ジョシュアの表情を見ていると、まるで愛しい人を見ているかのような幸せそうな顔をしている。

特に派手なパフォーマンスをしていたわけじゃない。
けれど、今見たジョシュアの姿は桃花の目や頭だけでなく、心にも焼き付いた。

「ドウゾ」

シンプルに描かれたものはハート。
それに視線を落としてからジョシュアを見上げると、いつものニコニコ顔のジョシュアが映った。

それ以降何も口には出さないが、桃花は『飲んでみて』と言われている気がしてそっと口をつける。
それは同じコーヒー豆、同じ道具、同じマシンで作られたはずなのに、自分が生み出すものとは違った風味。

桃花は自然と口が開いてしまう。
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