世界でいちばん、大キライ。
「葉月さんが、またおいでって言ってた」
「い、いやいやいや。ちょっと待て! なに?! なんでそんなことになってんの?!」
「ヒミツ」
「はああぁー?!」

部屋中に響き渡るほどの大きな声に、麻美はわざとらしく両手で耳を塞ぐ。
久志は何から問い質せばいいのかわからずに、ただただ茫然と麻美を見つめるだけだ。

(なんでそんなことになってんだよ? まさか、あの葉月って女が……? いや、でも悪い奴には到底思えねぇし)

引き続き混乱したままの久志に、耳から手を下ろした麻美がくるりと顔を向けた。

「ヒサ兄」
「……なんだ」
「来週お弁当の日あるから」
「……あー……そう」

(今はそういうことじゃねえだろーが)

ソファに膝を抱えるようにして再びテレビに向いてしまった麻美の横顔に、心の中で溜め息混じりで突っ込む。
すると、その横顔のままの麻美が小さく口を動かした。

「……あの人に、英語……教えて貰おうかな。来年行くし」
「……あっちに行く前に、お前は野菜食えるようになれよ、野菜を」
「ほんと、ヒサ兄って小舅タイプ! だから彼女出来ないんだよ」
「うっせ。向こうで肉ばっか食ってデカくなっても知んねぇぞ」

大きな中年の男とまだ小学生の少女という差があるというのに、言いあいする姿はまるで兄妹。

結局、麻美はそれ以上特に口を割ることなく。
久志はいつも通りシャワーを浴びて、溜まった洗濯物を回しながら、軽い食事とビールを飲む。
その頃には麻美はすでに自室にこもり、就寝しているという日常だ。

ふと、テーブルに放置したままの携帯に視線を落とす。
そして、おもむろにそれを大きな手で拾い上げると、頬づえをつきながら携帯を弄る。

画面に出てきたのは【葉月桃花】という文字。
それをややしばらく見つめると、久志はひとり頭を抱えて苦渋の色を浮かべた。
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