薫子さんと主任の恋愛事情

  8.ドライブデート


「お待たせしました」

何やら楽しそうに話し込むふたりのそばに駆け寄ると、大登さんが私に素早く顔を寄せる。

「とし子さんから、いろいろ聞いた」

そう言う大登さんの顔は、欲しかったおもちゃを手に入れた子供のように上機嫌。

一体何を話したの?と言わんばかりに井澤のおばちゃんを見れば、口パクで『ごめんね』と言って肩をすぼませた。

しかも、いつの間にか“とし子”とか呼んでるし。仕事でもそうだけど、誰とでもすぐに打ち解けてしまうのは、大登さんの人柄が成せる技なんだろうけれど。

何を聞いたのか気になる。

でもいつもと違う自分の格好に落ち着かなくて、大登さんの腕を軽く掴んだ。

「そろそろ行きませんか?」

おばちゃんには申し訳ないけれど、今は外で立っているより早く車の中に身を隠したい。こんなことなら無理しないで、やっぱりパンツスタイルにすればよかった。

後悔先に立たず──

つい、はぁとため息が出てしまう。

「じゃあ行くか。とし子さん、薫子さんを少しお借りします。また今度ゆっくりお邪魔しますね」

「はいはい、いつでも来てちょうだい。八木沢さんなら、いつでも大歓迎よ。薫子ちゃん、楽しんできてね」



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