可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

七瀬の宣戦布告




【 七瀬の宣戦布告 】




『なんであたしにキスするんだろ』




七瀬由太のくちびるが触れる寸前まで近付いたとき。

あたしが考えていたのは、目の前にいる七瀬のことじゃなくて、もう1年近くも会っていない聖人のことだった。







あたしがはじめて聖人にキスされたのは13歳のとき。


面識がなかった、爽やかだって評判のバスケ部の2年生が突然あたしに告ってきて。

その場ですぐに断ったけど、その2年がモテるヤツだったから周りからすごいひがまれて、同じグループだった子たちからハブりにされた。


あたしは『あいつらウザかったしせいせいした』なんて言って全然平気なフリをして、むしろ自分からひとりになることを選んだような顔をしていたけど。

ほんとは脅かされることがあるなんて想像もしてなかったあたしの学校での立ち居地が、突然みじめな『ぼっち』に堕とされたことに呆然としていた。


ちょっと前まで『仁花ちゃん仁花ちゃん』ってあたしに媚びるようにすり寄っていた子たちから無視されるのは、屈辱で、恥ずかしくて、悔しくて。

何より心細かった。



そのことを見抜いたように、聖人は黙ってあたしの傍にいてくれた。



慰めだったのか、同情や憐れみだったのか分からない。



あたしが『全然平気』だと強がりを言ったとき、聖人はあたしにキスをしてきた。

そのとき、あたしは聖人から与えられた突然のキスをただされるがままに受けた。




< 69 / 306 >

この作品をシェア

pagetop