スイートな御曹司と愛されルームシェア
第二章 なつかれました
 新しいブラウスとスカートに着替えた咲良は、楢木翔太と名乗った、昨日まで赤の他人だった男がローテーブルに皿を並べるのを見ていた。白いシャツとスーツのズボンに、咲良の生成りのカフェエプロンを着けた翔太は、おしゃれなカフェ店員のようにも見える。

 咲良の目の前に置かれた白い丸皿には、こんがり焼けたフレンチトーストが形良く盛られていて、立ち上る甘い香りに今にもお腹が鳴りそうになる。それを咲良は腹筋に力を入れて耐えた。

 翔太が向かい側に腰を下ろしたのを見て、咲良は小さく咳払いをして言う。

「あのね、まずはっきりさせておきたいことがあるのよ」
「何でしょう」

 翔太が鳶色のぱっちりした瞳を咲良に向けた。

「あの、えっとね、あなたと私はね……その、昨日ね……」

 さすがの咲良でも、ずばり〝私はあなたとセックスしたの?〟とは訊けなかった。頬を染めてもじもじしているのを見て、翔太が口元を緩めて言う。

「寝ましたよ」
「ってことは……」

(私、この人としちゃったんだ! 私ってそんなに欲求不満だったのね。大学時代に彼氏と別れてからずっと独り身だったから、酔った勢いで押し倒しちゃったのかな……)

 自分の所業に頭痛を覚えて、咲良はローテーブルに肘をついて額を押さえた。

 食欲も一気に失せた気がする。

「やっぱり朝食はいいわ。あなた、一人で食べといて」

 咲良が皿を押しやると、翔太があわてたように言った。
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