勇者様に出会ったので救ってもらおうと思う
誰も信じられない
幼い頃から女性に好かれることが多かった。

幼稚園の頃から同じ組の女の子から逃げる日々。
助けを求めて先生のところに行っても先生同士で自分の取り合いになる為どこにも居場所はなかった。
小学生の頃は誘拐されて丸一日監禁…その時の記憶がないから何をされたかわからない。
中学に上がると一層周りが騒がしくなったように思う。
ある時、先輩に呼び出され空き教室へ行くと「私のものになって」と首に刃物を突き立てられた。
必死に逃げて何とか殺されずに済んだが、もう耐えられなかった。

女性不信どころか女性恐怖症になってしまった。

女性に話し掛けられるだけでショック状態になり、体に蕁麻疹まで現れる。
数々の事件が起き学校側も気を遣って女性を近付けないよう協力してくれた。

こんな自分に生きる価値はあるのか。

精神的にもダメージが酷く、家族に迷惑を掛けた。
自殺願望は常にあったが何とか実行せずに済んだのは家族のお蔭だ。
ことある毎に勇気づけてくれた。話を聞いてくれた。


高校生になってからも女性に対する恐怖は変わらなかったが、数少ない友達や恩師、そして家族のお蔭で楽しく学校生活を過ごしていた。
事情を知った女子生徒達も自ら近付いて来ることはなく、話し掛けられることもなかった。(…熱い視線を感じることはあったが)

こんなに快適な生活は初めてで、浮かれていたのかも知れない。

「僕となら…いいよね?」
「………………」

え?良くないよ?そもそも何がいいの?
最近出来た友達に連れられやって来た社会準備室で手を握られた瞬間、言葉を失った。
幸い護身術は心得ている。しかし、話せばわかってくれるかも…

「ごめん。俺、男とは…ちょっと」
「大丈夫だよ。ほら「触んな!!」

ダメだったので倒して逃げた。
くそっ!俺は普通に生活出来ないのか!!あ、涙が…
一部の男にもそういう目で見られていることは知っていた。油断しきっていたんだ。もっと警戒しなければ…


いつもなら信頼している友人と登校するが、その日は一人で学校へ向かった。
情けないが人が怖くて仕方ない。どうすればいいんだ。
女は怖いが恋愛対象は男ではない。だからといって好きな子が出来る可能性もない。
この先ずっと一人なら、やはり死ぬべきか…。




「あの…すみません。道に迷ってしまって…」




急に話し掛けられた相手は同じ制服を着た女の子。
本当に困った様子でこちらを見ている。

「私、今日からこの学校に転校することになったんですけど…何処かわからなくなって」
「あ、あー…うん、道合ってるよ。あそこの交差点右に曲がったら校舎見えると思う」

ホッとしたのか短く息を吐き、花が咲くように微笑んだ目の前の女の子は「ありがとうございます。助かりました!」と勢い良く頭を下げて交差点に向かい駆けて行く。

「………あ!待って」

名前を聞いてないことに気付き声を出したのは女の子が右に曲がって姿が見えなくなってからだった。アホ過ぎる。


家族以外の女性と普通に会話するのは何年ぶりだろうか。
過呼吸になってない。蕁麻疹もない。…まったく怖いと思わなかった。
こんなこと初めてで、俺は感動していた。訳がわからないが涙が溢れている。

嬉しい。彼女なら好きになれる。…もう好きなのかも知れない。

絶対見つけて絶対付き合ってもらおう。
同じ学校なのは確実だし、今日転校してきたっていう情報だけでも簡単に見つけられる気がする。


しかし、この時俺は忘れていた。
人が怖くて聞き込みなんて出来ないことを…


結局見つけられるまで2週間以上かかった。


付き合ってもらえるまで、それから1ヶ月と少し。
正直、彼女が困っていたのはわかっていたけど無視してきた。
俺の思いに周囲も応援してくれたのが良かったのかも知れない。


ごめんね?君にしか俺は救えないと思うから絶対逃がさないよ。



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