夢幻罠

2

夜霧がまた辺り一面に、まるで木炭でフロッタージュ(*摩擦画)したようなモノトーンの夢幻を形成していた。

俺は重い大気の中を車に向かった。

車のドアにキーを差し込み、回した。

開いていた。

俺はコンビニとか銀行など短時間で済むと思う場合には鍵を掛けない。別に盗まれて困る物は入れてないからだ。せいぜい小銭ぐらいだろう。だったらその手間をはぶくほうが貴重だ。

…今回も掛けなかったのだろう。

体を折って乗り込もうとした。

「ウワッ!」

想像を絶する光景に、魂が声を張り上げた。

助手席の上を、生首が、漂っているのだ!!

首がこっちを向いた!!

思わず腰が引け、ニ、三歩あとずさった。

ドアから白い腕が、ニューと闇を掴むように伸びた。

(ワッ助けて)

今度は声にもならなかった。

「ごめんなさい。驚かせるつもりじゃなかったの」

(ワッ 口をきいた!!)

「私よ、バーで一緒だった」

「エッ!?」

「マティーニ、ご馳走様でした」

幽霊は、黒で統一した服を着た、バーで先程まで一緒だった女だった。
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