忙しく包丁を動かし、刻んでいたキャベツが美しい千切りになったとき、ふとキッチンカウンターの向こうにある壁掛け時計に目をやった。
その針はちょうど両手を同時に上げたような状態を示している。

今日も、10時を過ぎてしまったのだと分かると、思わずため息が漏れてしまう。
昼寝をしていて気づけばかなり遅い時間になっていて、それから急いで晩ごはんの用意にとりかかった。

にも関わらず、結局彼を待つことに変わりはないという事実に虚しさを感じてしまう。

私は切ったキャベツを皿に盛り、その上に先ほど揚がったばかりのコロッケを並べる。
手作りのそれは、付き合っていたころからの彼の大好物だ。

今でも、「おいしい」って食べてくれるかな?
私の中で徐々に焦りが溢れ出す。菜箸を置き、自分の身を包むようにして体を丸める。

するとそこに、救いとも思えるチャイムの音が鳴り響いた。

私は駆け足で玄関へ向かう。そしてチェーンと鍵を外すとその扉は外側へ開いた。

「ただいま、…由里」

「おかえりなさい、海斗」

良かった、今日は帰ってきてくれた。
微笑む海斗から鞄を受け取りながら私は安堵のため息をつく。

「ん?今日揚げ物?」

「そう。コロッケ…」

「俺の大好物じゃん!すぐ着替えてくるから」

そう言って海斗は寝室へと消えていった。

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切ない  四角関係