エリナは自分の部屋でいつもの深緑色の侍女服に着替えると、おろしていた柔らかい黒髪をひっつめてお団子にし、やけにほっとしてしまうのを不思議な気持ちで感じていた。


キットから注がれる眼差しはなんだかむずがゆくて、彼の手は妙にくすぐったい。

たとえ恋人に触れられたって、もっとすごいことをされたって、あんなふうに頬を染める自分ではないのに。


エリナはキットに言われた通りウィルフレッドの書斎へ向かいながら、頬に触れてそこがもうほてってはいないことを何度も確認した。


客室の近くにある書斎の扉は薄く開かれていて、中を覗くと本棚の前に立つキットの姿が見えた。

彼の深い青色の視線は熱心に手の中の本に注がれていて、端正な横顔はつい息を止めてしまうほど精悍だった。


エリナがそこに立ち尽くしていると、ふと気配に気付いたのか、キットがくるりとこちらを向く。


「エリナか。こっちへおいで」


キットの切れ長の瞳が、エリナの姿を捉えてふにゃりと緩む。

その視線に絡めとられると、これまで経験したことのない未知の感情にドキドキさせられるとわかっているのに、エリナは操られたようにキットの隣に吸い寄せられて行くしかなかった。

この作品のキーワード
ファンタジー  王子様  公爵  恋愛  あまあま  キス  トリップ  溺愛 

感想ノートに書き込むためには会員登録及びログインが必要です。