王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

ここで本当のことを話してしまうべきなのか迷い、エリナはこっそり唇を噛み詰めたが、結局はちみつを抱える腕に力を込めることしかできなかった。

今はなんとしても、これが必要なのだ。


彼女が元の世界に戻るために。

そして、キットの命を繋げるために。



その後エリナは屋敷の客間に通され、ふかふかのベッドで何度も寝返りを打った。

朝が来れば、エリナと、そしてウェンディの希望で、ふたりは一緒にウィルフレッドとキットのいるランス公爵家の本邸へ向かう。

エリナとしてもふたりには直接会って欲しかったし、はにかみながらも自分の望みを告げたウェンディに、妹を溺愛するエドガーは許しを出さざるを得なかった。


(キットは何て言うだろう……?)


はちみつを譲ってもらったことを褒めてくれるだろうか。

完成まで残すはラズベリーだけだと、喜んでくれるだろうか。

それとも、真実を告げられなかったエリナに幻滅するのだろうか。


キットならこういうとき、どうするのだろう。


(……はやく会いたい、かも)


達成感と、はやる気持ちと、罪悪感と。

エリナは複雑な想いを抱えながらそっと目を閉じ、瞼の裏に彼の姿を思い浮かべて、そこにキスをくれた彼の名残に誘われるように静かに眠りへと身を投げた。
< 124 / 293 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop