王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
(そうなったら、なんとかして私はそっちを譲ってもらおう)
たぶん、誰よりも早くラズベリーを得られるのは自分だという気がする。
そのときにはエリナの小瓶の中で完成された禁断の青い果実をキットに与え、そのあと国王から自分のぶんの果実を譲ってもらえばいい。
エリナは公爵家のただの侍女だけど、キットやウィルフレッドに口を利いてもらい、王太子の命を救ったという功績があれば、なんとかなるかもしれない。
キットには、生きていてほしい。
たとえ彼が小説の中の登場人物で、エリナがいずれこの世界を去ってしまうとしても。
エリナは背を向けたキットの姿を思い出し、手すりについた腕の間に頭を突っ伏した。
どうしてあんなふうに拒絶されたのかがわからない。
もし本当にキットの命かキスひとつかを選べと言われたら、エリナは迷わずランバートにキスをするだろう。
それが間違っているとは思えないのに、どうしてキットが怒るのかわからない。
(キットを想ってヴェッカーズ伯爵にキスをしたとして、それは真実の愛のキスとは言えない……?)
バルコニーの手すりに伏せるエリナの黒い髪を夜の優しい風がそっとなびかせ、銀色の月明かりが柔らかく包み込んでいた。