キットがウェンディに王家とウィルフレッドの企みを全て話してしまったのには、実はもうひとつ理由があった。


小説の執筆に苦しんでいた兄の弥生が、『ヒーローのウィルフレッドが気に食わない』と散々嘆いていたからだ。

何でもそつなくこなしてしまう、掴み所のないウィルフレッドを動かすのは大変だったらしく、最後に小説の話を聞いたときには、『いっそのこと暗殺して悲恋物にしてやる』などと相当煮詰まったようなことを言っていた。


弥生がウィルフレッドを好きになれないのは、ふたりにある種似たところがあるからではないかと思う弟であったが、賢明にもそのことは言わなかった。


(これで暗殺しなくて済むだろ。あとは勝手になんとかしてくれ)


ウィルフレッドとウェンディの恋路のお膳立ては、十分にできたと思う。

このあとふたりをどう描くかは、もう作者である弥生に任せるしかないだろう。


キットはそんなことを考えながら、明るい夜空を見上げた。

今夜も月は綺麗である。

彼は昨夜と同様のルートでエリナの部屋のバルコニーに忍び込み、まだカーテンが閉まっている窓の前で、彼女が出てくるのを待っていた。


手すりにはちゃんと、本来の目的と口実という役割が逆転しつつある小瓶が置かれている。

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