王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

あの日キットから真実を聞かされ、ウィルフレッドには何も告げず、逃げるように家へ帰った。

心配する兄をかわして部屋にこもり、声を押し殺してひたすら泣いた。


あの出会いが意図されたものだったことが、ひどくショックだったのだ。

ウィルフレッドだけは、自分をただひとりの女性として見てくれていると思ったのに、結局は彼もウェンディがコールリッジ伯爵の娘だから近付いた。

仮面舞踏会での偶然の出会いに舞い上がっていたのは自分だけだった。

滑稽で、バカみたいだ。


そのときはもう二度と社交界などに顔を出すものかと思ったが、身体中の水分を涙にして押し流すと、なんだか妙にスッキリした。


ウェンディが泣き腫らした顔でエドガーと共にヴェッカーズ伯爵家の収穫祭に参加することを宣言すると、父と兄はかつてないほど困惑していた。

あれほど社交界を拒否していたのに、そんなに目を赤くして一体何があったのかと慌てふためくふたりに、ウェンディの様子から何かを察した母が言ったのだ。


『今まで悩んでいたことも、突然ちっぽけなことだったと思えることがあるのよ。いい人と、素敵な恋をすると』


この言葉は心配性の兄をあたふたさせ、娘を溺愛する父を大激怒させた。

ウィルフレッドの元への訪問を許した時点で大方予想もできただろうに、父とはおかしなものだと思う。
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