王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「心配すんな、ウィルなら外にいる。あいつが本気になったら気持ち悪いほど溺愛するに決まってるだろ。きっとウェンディを抱き上げて、いちばんに脱出してるさ」
キットには不安そうなエリナの考えが手に取るようにわかるらしく、軽くおどけて従兄弟の"溺愛"を想像し、うんざりした顔をしてみせる。
(自分だって過保護なくせに)
自分のことは棚上げなのか自覚がないのか、そんなキットがおかしくて、その気遣いが嬉しくて、エリナは小さく微笑んだ。
「うん、そっか」
舞踏ホールに残っていた客の最後の集団が避難し、誘導していた使用人たちも慌ただしくホールを出る。
エリナたちのまわりには何人かの警備兵が付き添い、足早に廊下へ出ると、火元とは反対の方へ誘導された。
隣を歩くキットが、エリナの右手をぎゅっと強く握り締める。
エリナはそんなキットの横顔を見上げ、ドレスの隠しに入れてある小瓶に無意識に手を触れた。
(よかった、ちゃんとある……)
だけど、何か。
まだ何か、大切なものを忘れているような気がする。
火元はラズベリー畑だろうか。
警備兵は燃え広がるのがはやいと言ったけど、今夜は風もないし乾燥しているわけでもない。