日が落ち、コールリッジ伯爵邸が鮮やかな茜色に染まる。

玄関口に立つ男の左頬は、夕陽に照らされてより一層赤味を増して見えた。


「本当にごめんなさい……」


痛々しいその頬に顔を歪めたウェンディは、泣き出したい気持ちを懸命に堪えながら俯く。

痛いのは、殴られたウィルフレッドのほうだ。


自分にここまでしてもらう価値など、あるのだろうかと思う。

彼が頬を殴られてこの屋敷から帰って行くのは、今日でもう3度目だ。


ウェンディだって『もう殴らないで』と懇願しているし、父も父で努力はしているようなのだが、ふたりの結婚の前に立ちはだかる様々な障壁について話をしていると、嫌でも夫婦になったふたりを想像してしまうのだろう。


父曰く、ウィルフレッドの嫁になったウェンディを想うと、どうしても頭に血が上るらしい。


これでは、正式な婚約を結ぶ前に、ウィルフレッドに愛想を尽かされてもおかしくはない。


「あの……嫌いに、ならないで……」


震える小さな唇からつい本音をもらすと、見送りに出ている周囲の侍女や御者にはお構いなしに、ウィルフレッドの力強い腕でぎゅうっと抱きしめられた。

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