王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
ウェンディは今は閉じられた翡翠色の瞳に合わせて、深い緑色のドレスを着ている。
目元を覆ったままだった仮面がもどかしくなったので、右手で外してくしゃりと握りしめた。
風に合わせて踊るはちみつ色の髪と白い肌が、月の光を吸い取っていくかのようにキラキラと淡く輝いている。
ふいに、ステップを踏む自分の足音に、別の誰かの足音が混ざった。
驚いて身体を硬直させ、目を開く。
振り向くと、濃い栗色の巻き毛で背の高い男性が自分を見つめていた。
「待って!」
反射的に庭園のもっと奥の方に逃げようとしていた手足が、力強く甘い声に絡めとられて止まった。
指先が小刻みに震えるが、それが何からくる震えなのか、ウェンディにはよくわからない。
「あなたのような人がひとりでこれ以上奥へ行けば、箍の外れた者に簡単にとって食われてしまうよ」
「……?」
王宮舞踏会の庭の奥での逢瀬は、もはや問題になるほど有名な話だが、ウェンディはそのことを知らなかった。
ウェンディの身体は"食われる"というセリフで男の方へ戻りかけたが、その翡翠は躊躇いに揺れている。