【完】キミと生きた証
『先生・・ありがとうございます。』



高熱でうなされる日も、教授がくればちとせは起き上がって、何度も感謝の言葉を述べたらしい。




拒絶反応や感染症と闘って、その姿に本人の母親も涙を浮かべる中、ちとせは笑顔で言ったそうだ。




『泣かないで・・・耐えるから。嬉しいよ。もう一度・・・瞬との思い出を・・・この胸に刻める。』




徐々に体が慣れてきた頃、腎不全と診断がおりた。
・・・長い間、あれだけ飲んできた利尿剤の最大の副作用だ。



それをちとせに伝えると、ちとせはふっと笑って空を見上げたそうだ。



『そうですか。・・・前にも話した彼がお医者さんになるまで・・・生きてたいなぁ。』



心臓移植の後の不安定な体をもって、腎不全の治療が始まった。
ちとせは、大病院で必死に治療に耐え続けた。



雪の降る季節。
日本の南にあるその病院から、山の上に雪がかかってるのを見つめて、ちとせはまっすぐ指をさした。




『ここよりずっと北に、あたしは住んでたんです。大好きな人が、たくさんいました。』



ぽつりぽつりと思い出を語ったそうだ。


手術の傷跡の上に手を置いて



『あたしの方から瞬と・・・離れたのに。新しい心臓にも、あのあったかい鼓動を・・知ってもらいたかったな。』



そう言っていた。





・・・――――。





「彼女はまるで、毎日を君と一緒にすごしているようだったよ。ことあるごとに思い出を抱きしめて、離さなかった。」




教授は目を閉じて振り返っている。









「…そ、ですか・・。それで、ちとせは今・・・。」



俺は息をのんだ。




「あぁ。ちとせさんは・・・―――。」



教授の答えを聞いて、すぐにこの会場を飛び出した。




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