恋をしようよ、愛し合おうぜ!
30(野田真吾視点&最終話)
「まじ・・・・・・すか」
「任期は最低5年だから。これを機に、なっちゃんと結婚したらどうだい?なかなかいい考えだと思うんだがなぁ」

とのんきに言ってる金崎部長は、なつきが離婚したばっかりだと知らない。
てか、あいつが結婚してたことすら、会社の連中は誰も知らねえし。

「あの、部長」
「ん?」
「今すぐ返事しないといけないっすか」
「いや。でも今週中に返事ちょーだい。ビザの申請とか、いろいろな手続きが必要だから」
「分かりました」
「野田君」
「はい」
「これは昇進だからね。いい返事を期待しているよ」と部長に言われた俺は、ひとまず「はい」と返事をして、会社を後にした。




元々この仕事は好きだったから、結婚しても仕事を優先させていた。
離婚してからは、ますます仕事を優先させて、ひたすら実績を出すことに喜びを見出していた。
それを会社側が評価してくれたことは、俺だって嬉しい。
嬉しいが・・・参ったな。

自分で仕事を創り出してるなつきは、少しずつ基盤を築き上げている最中だ。
そして着実にキャリアを伸ばしているってのに・・・。

このタイミングで転勤かよ。

国内ならまだしも、行き場はドイツときた。
なまじ英語よりドイツ語のほうができることが、こんな形で役に立つとは・・・仇になってんじゃねえか、ちくしょう。

つい腹いせにハンドルをドンと叩いたが、そんなことをしても何の解決にもならない。
それに、今俺一人で悶々と悩んでも仕方ねえ。
どっちにしても、早くなつきに会おう。
あいつの顔見て安心したい。

俺ははやる心を抑えながら、気持ち車のスピードを上げた。






案の定、帰ってくるなりなつきに顔をじーっと見られた。
こいつの可愛い顔に見られると、ついキスしたくなるが・・・今はまだだ。

「真吾くん、仕事でなんかあった?さっきの声も硬かったし」

晩メシ食った後で話そうと思ったが、俺の食欲もなかったので、結局着替えてすぐ話すことにした。



「・・・・・・転、勤?」
「ああ。ミュンヘンに新しく事務所作ることになってな。俺は所長として、立ち上げから関わることになった」
「わぁ。じゃあ昇進じゃないの!おめでとう!」
「あー、まあな。俺くらいの若僧を所長にするくらいだから、事務所の規模はせいぜい5・6人くらいの小せえもんだ。ったく、仕事に打ち込んで実績出し続けたらこれだもんなぁ」
「もしかして真吾くん、行きたくないの?」
「・・・正直迷ってる」
「どうして。これ、チャンスじゃないの?」
「チャンスだが・・・」

と俺は言いよどむと、顔を上げてフーッと息を吐いた。
まるでタバコを吸ってるみたいに。

そして正面にいるなつきをひたと見据えると、意を決したように話し始めた。

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