いろはにほへと
花は咲いても。
「あ、のー…」




帽子を被っていても、焼け付くような陽射しが容赦なく降り注ぐ。




「あのーってば…」




いつもなら、一人で黙々とやる庭仕事。




「ねぇって…」




脚立に上って、藤の手入れをしている私に、雑草を抜く茶髪男がやたら話しかけてくるので、無視している所だ。




「つ・か・れ・たー!!きゅうけーい!!!」




「!!!」




始めてまだ五分と経たないのに、この茶髪五月蝿男は、縁側にゴロンと寝転がる。





いや…。



無視だ、無視。



ほっとこう。




私は自分を制して、藤に意識を集中する。




なのに。





「ねぇ。」





心頭滅却とは、どうやったらできるんだろう。





「俺さ、トモハルって言うんだけど。」





普段一人きりでいる私は、しつこく話しかけてくる男に対処する術を知らない。





「君の名前はなんて言うの?」




男、、いや、今しがた名乗ったトモハルという男に気付かれないように、ちらりと縁側の方を一瞥すると、彼は膝までのズボンからにょきっと出た足を地に付けて、上半身を大の字にゴロ寝していた。




そのせいで髪が脇に垂れて、隠れていた筈の目が私を見ているのがわかった。

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