Again
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12時間ちょっとのフライトを終えて、飛行機を出る。想像以上にファーストクラスは良かった。12時間もどうしようかと思っていたが、そんな心配は、いらなかった。もっと乗っていたいと思ったほどだ。映画も飽きるほどみて、シャンパンにワインと食事を堪能した。



飛行機を降りると、小柄な葵は人ごみに揉まれ、手荷物を取りそびれてしまい、余計な時間をくってしまった。





「もう、旅の始まりがこれじゃ、何か起こりそうじゃない」





一人でぶつぶつと文句をいい、税関を通り、やっと外に出た。パリ市内に向かうバスを利用する観光客を余所目に葵はタクシーに乗り込む。



旅の会話帳のタクシーの場面を指で挟んでいて、タクシーに乗り込むと、自分では声を出さずに指で目的地を示した。



ちゃんと言葉で言うつもりで、機内でも同じフレーズを練習したはずなのに、いざとなるとすっかり忘れてしまっていた。運転手は、親指を立てたジェスチャーで返し、葵は、ニコリを笑って、頭を下げた。

順調にタクシーはパリ市内を目指していた。しかし市内に入ると渋滞をしており、まだ少し明るかった外は、すっかり夜になっていた。機内で教えてもらい、葵の腕時計は現地、パリの時間にセットしてあった。



その時間を見ると、もう夜の8時近くになっていた。



ホテルに着いて、タクシーを降りると、やっとフランス語でお礼が言えた。ベルボーイがタクシーのトランクから荷物を取出し、葵をフロントに案内する。



葵は英語で名前を名乗ると、フロントには伝わっているようで、仁が言っていた通りカードキーを渡される。



初めてのフランス。ホテルはきらびやかな中にも上品さがあり、芸術を感じられた。同じホテルマンとして、観察して持ち帰りたい。写真に収めて、勉強をするのもいい。そんなことを思いながら、ロビーを眺める。



ベルボーイが部屋に案内をしてくれようと荷物を手にしたが、葵はそれを断り、自分で部屋に向かった。

エレベーターを降りて、部屋番号の案内版を確認すると、やはりスイートルームであった。





「自分のホテルのスイートルームは見飽きているけれど、5つ星ホテルでしかもフランスなんてどんな豪華さなんだろう。宮殿みたいだったりして」





葵は、仁がすでに宿泊している部屋の前に立ち、一呼吸おく。仕事かもしれないと言っていたが、どうだろうか。いるだろうか、いや、今の時間は居るはずがない。心の中で言い合いをしながらも、緊張を隠せないでいる。



キーをかざし、カチャリと開錠の音がしてドアのノブを捻って開ける。いきなりリビングの様な感じでドレッサーがある。おのぼりさんのように天井から床まで舐めるように見渡しながら、部屋の中に足を進める。

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