Again
「あ、おはようございます。ご飯、食べますか?」



のんびりと休日の朝食を楽しんでいたが、仁の登場で一気に空気が変わる。他人が傍にいるという感覚だ。だが、結婚して夫婦ともなれば家族となる。交際0日の夫婦では、探り探りの毎日だ。

仁の朝食の用意をするために、サイドテーブルに両手を付いて、立ち上がる。



「ああ」

「今、用意しますね」



キッチンにパタパタと行き、ポトフを温め直し、葵と同じスクランブルエッグとハムを焼く。豆乳とフルーツを手早く用意して、キッチンのカウンターに座っていた仁の前に置いた。



「お待たせしました」



葵は、そのまま、仁とは離れ、元のテレビの前で食事をしていたリビングのサイドテーブルに戻った。

葵は食事の続きを食べ始めると、仁が自分の食事を持って、葵の隣に置いた。



「あ、こっちで良かったですか? ごめんなさい」



慌てて、立ち上がろうとした時、仁がそれを止めた。



「いや、いいよ。自分でやるから」

「ごめんなさい」



二回くらいキッチンとリビングを往復して、仁は葵の隣に座って食事をはじめた。



「いただきます」



テレビを正面に二人並んで座る。こんなに広いリビングで滑稽な状況だ。葵はテレビを観つつも、気はそぞろで、内容は全く頭に入っいない。相変わらずの会話のない食事をしていると、仁が葵に話しかけた。



「今日の予定は?」



葵と話をしたいと仁は常に思っている。買い物でも、映画でもなんでもいい。葵が喜ぶこと、楽しくなることを一緒にしたい。だから週末を休む為にがむしゃらに頑張っている。

ただ、断られるのが怖いのだ。後ろめたさがある仁はそれが怖くて誘えないでいる。

しかし、このままでいいとも思っていない。外はとても良く晴れている。予定を聞いてみるだけでもいいだろうと、話しかけた。



「え? ああ、今日は家の中の事をしたら、買い物に」



葵は、少し前まで、ネットスーパーを利用していたが、週末の空気の重さに耐えかね、スーパーに買い物とこじつけ、外出をするようになった。週明けにも身体の疲れが取れない状況が、結婚してからずっと続いている。仁と仕事の重さ、量などは、葵と比較の対象にもならないだろうが、社員として仕事をして、家事もこなしている葵の方が、自由時間は少ない。葵の気力、体力を回復するのは、週末にだらだらして、のんびりした時間を過ごすことが大切なのだ。結婚した今、それをシフトチェンジするのが、今現在の目標だ。



「一緒に行こう。車を出した方がいいだろうか?」

「え? あ、はい。えっと……お願いします」



仁が、そう言って来たのは初めてだ。葵は躊躇いつつも返事をした。

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