Again
お茶を飲みたい。喉がカラカラだ。葵の喉は、生唾を飲み込んで上下する。しかし、水を要求することなど出来ない雰囲気に、ひたすら我慢をしていた。

そう思っている所へ、外から女将が失礼しますと声掛けをして、障子が開けられると、両手を前にそろえた女将が正座をして頭を下げた。





「料理が運ばれてきましたな。まずは、楽しく食事でも致しましょう」



仲人の中村の声掛けに、場に慣れない義孝、恵美子は、愛想笑いで返す。

小鉢にちょこんと盛り付けられた料理に重箱に入った、お弁当の様な食事。絵巻物に出てきそうな可愛らしさだ。葵は、姿勢を正したまま、料理を眺めた。

全員の料理が運び込まれ、中村のいただきましょうという声で、食べ始めた。しかし、葵が横目で見る両親は、緊張のあまり箸がすすまないようだ。葵は、食事よりも喉が渇き、真っ先にお茶に手を伸ばした。





「喉が渇きますよね」





そんな葵を見て一緒にお茶に口を付けたのは仁だった。仁はその時初めて笑顔を見せた。会話のきっかけを作ったのだろうが、会話が弾むような雰囲気ではない。葵は、助けを求めるように、恵美子を見た。

仁の両親もまた、じっと黙り、見合いの様子を観察しているようだった。それもまた、義孝、恵美子にとっては品定めをされているようで、落ち着かなかった。お互いに視線を合わせ、合わせ鏡の様にして、マナーを確認していた。

中村も場を和ませようと、話題を探しては、話かけていたが、単語で終わってしまい、会話は続かなかった。

慣れていない着物で苦しかったのもあるが、食事は味が分からなかった。上品な味付けで美味しいことは分かっている。食事は楽しく食べることが、味覚にも影響するのだと、しみじみ思っていた。

最後のデザートを食べ、食事は終わりとなった。中村の、お約束の若い二人でお話でも、ということになった。





「私たちは、別部屋にコーヒーと和菓子を用意してありますので、そちらに移動しましょう。お二人でお話なさって下さい」

「はい」





仁が返事をして、葵は軽く会釈をした。

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