***

玄関を開けると、

「おはよう、桜」

コハクが満面の笑みを浮かべて待っていた。


「いつからそこに居たの?」

「ん~20分くらい前かな」


朝、一緒に行く約束なんてしていない。

7月になった今、いくら朝とはいえ炎天下の中外で待っているなんて。


「昨日、連絡先聞くの忘れちゃってさ」


頭をポリポリとかきながら照れ臭そうにコハクが呟いた。

とりあえず、冷えた麦茶を持ってきて彼に飲ませると

「ふー生き返った、ありがとう桜」

と、無邪気に笑っている。


──私には、この人の考えている事が分からない。

恋人のフリをするのにわざわざここまでする必要があるのか?


「あ、ここまで来たら嫌だった?」

「嫌というより、驚いた」

「桜に早く逢いたくて! ねぇ、手繋いでいい? 嫌なら諦めるけど……」


ニコニコ笑っていたかと思えば、怒られた子犬のようにしゅんと悲しんだり、コハクはコロコロと表情を変える。

見ていると、面白いかも。

獣耳があったら、最高なんだけどな。


「いいよ、恋人のフリするために早く来てくれたんだから」

「ありがとう、それじゃあ行こうか」


コハクは嬉しそうに私の手を取って歩き出す。その笑顔に私は元気を分け与えて貰っているのに気付く。

嫌な場所へと向かうモノクロのような通学路が、コハクという爽やかな風が吹き込んできて、一気に色彩を取り戻したかのように輝いて見えた。

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溺愛  甘々  いじめ  純愛  イケメン  学園  切ない  妖怪    三角関係 

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