「もうっ……! なんなのよ~!!」


グビッと一口豪快にカクテルグラスを傾けた後、私はカウンターに突っ伏した。


「舞子ちゃん、飲み過ぎじゃないかな……?」


馴染みのバーテン、シュウさんが苦笑混じりで困ったようにそう話し掛けて来る。


事務所からもマンションからも徒歩圏内の、静かなバー。
割と奥まったわかり辛い場所にあるせいか、立地はいいのにお客さんは少ない。
だけどシュウさんの腕がいいから、芸能人の間では口コミで人気がある。
深夜に近い時間になると当たり前に数人の芸能人が来ている、なんて言われているけれど、まだ宵の口には早い時間、他に見知った顔はない。


それでも私は、三杯目のカクテルに口を付けていて、既にほろ酔い、心地良くなっていた。
冷たいカウンターの感触が、ちょっと火照った頬に気持ちがいい。
そのまま眠気を感じて目を閉じた途端、微かな振動とバイブ音が頬に伝わって来た。


「ほら、また鳴ってる。いい加減、出てやんなって」


シュウさんがクスクス笑う声が頭上から降って来る。
顔を上げてカウンターに置きっ放しにしてあった携帯の画面を覗き込むと、『速水』って文字とその番号が表示されている。
呼び出し時間ギリギリまで着信を続けて留守電の応答が始まると、速水の方から電話を切った。
そして携帯は静かになる。
さっきから、十分間隔でこんなことを繰り返していた。


「何があったか知らないけどさ、速水さん心配してるよ。
あの人のことだからきっと探し回ってるって。電話くらい出てやんなよ」

「……知らない、速水なんか」


頬を膨らませて身体を起こすと、グラスを思い切り煽った。
カウンターの向こうで、シュウさんが本気で苦笑している。

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芸能人  年の差  マネージャー  毒舌  キス  片想い  敬語 

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